現在の研究対象である近代化遺産、その保護を語る上で必須不可欠な登録文化財制度について紹介(というより管理者が復習)するコーナーです。

掲載日 内容
17/11/15  前回の更新から間隔が空いてしまいました。種々事情があってのことですが、それにしても指定文化財と登録文化財との違いに気づいていない人が、未だあまりに多すぎます。(登録指定文化財、なんて記述が為されているものも、、、どっちだよ!)
 登録文化財5000件突破記念フォーラムというイベントが東京であったのですが、某有名建築史学者さえ、「ええっと、登録文化財、でしたっけ」なんて言っている様は、少々笑えませんでした。

 んなごたくは置いておき、今日は文化財登録制度を身近なものになさしめる顕彰制度「世界遺産」についてふれたいと思います。
 まずは「世界遺産」という用語についておさらい。
 「世界遺産(せかいいさん)とは、1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づいて、世界遺産リストに登録された遺跡や景観そして自然など、人類が共有すべき普遍的な価値をもつものを指す。」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 より
 この制度に関わっている機関の内のひとつがTICCIHや産業考古学会なのですが、、、ま、その話は別途の話題として。
 この世界遺産の制度は日本の文化財登録制度に近似しています。
 1.維持管理の義務を各国に課していること。
 ユネスコが「指定」しているわけではないので、奈良の寺社も、姫路城もユネスコ管理ではなく、日本の所有機関の管理と日本政府の指導に依存しています(とはいえ、時折審査も行われることはいうまでもなく、、)。
 日本の「登録文化財」も同様です。国が管理の義務を持っているわけではないことは、前回もお話ししました。あくまで助言程度です。壊すといわれれば、国に絶対的な拒否権はありません、、、そんなことあれば、の話ですが。
 とはいえ、世界遺産と登録文化財制度には当然のことながら、若干の違いがあります。世界遺産には、
 2.対象遺産の現状維持を義務づけている。
 項目があります。これに対し、日本の登録文化財制度は内部の活用に際して、建物の維持のため容認している部分があります。建造物活用に柔軟性を持たせているところが、違いとしてあげられます(発電所など用途の都合上どうしても設備変更が必要なものは、こうでもなければ文化財になれませんよね)。

 ここで触れなければならないのはやはり「原爆ドーム」でしょう。世界文化遺産(世界遺産のうち、人工物に関する部門)に登録されているこの史跡は、国指定史跡になっているものの、国指定重要文化財とはなっていません。しかも世界遺産登録打診以前は、指定文化財にすらなっていない物件でした。「年代が浅い」事が理由のひとつとしてあげられました。
 このころ、国重要文化財に指定されている物件は、ようやく大正時代にまで踏み込まれたものの、昭和期は対象になっておらず(ちなみに原爆ドーム=旧広島県産業奨励館は大正4年竣工)、まして廃墟に近い(まあ、壊れているわけですから、ね)物件を文化財として扱うのは、と言う現在では考えられないくらいの葛藤があったようです。
 先行して起こった産業遺構の文化財指定についてどう取り扱うかといった問題とともに、文化財登録制度はこのような文化財指定制度の葛藤をソフトランディングさせる「手段」の一つとして作られたものと考えられています。

 次回(次々回?)からは少し角度を変え、「登録文化財制度をどう活用するか」という課題について考えてみたいと思います。
16/7/12  話を少し昔に戻します。インターネット版朝日新聞6月21日記事に「葦平通った若松の料亭、国文化財に指定」とありますが、これは実は言葉として正しくありません。ではいったいどこかおかしいのでしょうか、今回は「指定」と「登録」の違いについて解説したいと思います。
 まずは指定文化財から。国・県・市町村の如何に関わらず、存在する文化財制度の一つですが、これらのいずれにしても
 1.行政組織がその文化財に対する価値を認め、
 2.その保護管理に際して責任を負う
という2点で共通の目的を持つ文化財です。では登録文化財とはいかなるものなのでしょうか。平成8年の文化財保護法改正によって新しく導入されたこの制度は、指定文化財と比較して次のような特徴があります。
 1.行政組織がその文化財に対する価値を認め、
ここまでは指定文化財と変わりはありません。
 2.登録文化財原簿に登録し、保護管理に際して補助を行う
この2番が登録文化財制度の特徴です。登録を行った行政組織に、その維持管理に際する直接の責任はありません。管理に関しては所有者が行うままです。
 この2番の違いに関してもう少し説明します。指定文化財の場合、行政組織に管理に対する責任があるため、建物の使用・活用に関してはかなりの規制がかかります。有名なものには、「火気厳禁(使用にはその都度許可を要する)」等があります。
 登録文化財の場合は、主に外観の大幅変更(改装)等を行う際にはそれが文化財の価値を損なうものでないか届出を行う必要がありますが、それ以外は特に規制はありません。活用に重点が置かれた制度である事がおわかりになるかと思います。
 国の制度という事で、格式ばったものと考える事が多いですが、保護の厚さで言うならば自治体指定文化財の方がよほど十分に保護が為されていると言うべきでしょう。登録文化財とは、所有者の良識にかなりゆだねられている文化財制度だという事も出来ます。
16/6/21  コーナー最初の話題は料亭「金鍋」の文化財登録について語ってみようと思います。
 この建物は、北九州市若松区の中心部に明治期建てられた(詳しい年代については定かではない)木造3階建て料亭建築で、いわゆる「洋館」のたぐいとは一線を画しており、しかしながら明治の香りを十分に漂わせた現役使用中の建物のひとつです。
 この建物の重要性は、その歴史的背景からも言い表せますし、建築意匠の面からも重要な要素が多々あります(詳しくはリスト参照の程)。しかしなぜ今まで文化財となり得なかったのでしょうか。
 最大の要因は、「現役で使用されている施設であること」です。他の一般的な文化財はといいますと、火気の取り扱いが許可制で面倒だったり、公開の義務があったり、修理するにも手続きが煩雑、、など、商業ベースで使用し続けるには酷な条件が重なり、「だったら指定してもらわなくても良い」と所有者に言われてしまう例が多々ありました。
 これら問題を解決し、現役施設として使用されながらもなおかつ文化財として顕彰することはできないか。そういった趣旨のもと平成8年度に制度化されたのが「登録文化財」という枠組みです。金鍋はこの登録文化財に加えられたことになります。
 このコーナーでは登録文化財制度について数回にわたり紹介してみたいと思います。今までとの指定文化財との違いや趣旨目的を懇切丁寧に紹介し、また自分自身上手く紹介できるよう精進したいと思います。